同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

スタッフ4名+医局秘書1名+部長1名で日々楽しく頑張っています。 大学の医局に関係なく、様々なバックグラウンドのドクターが集まっています。 後期研修希望者や(現在ほかの病院に勤務されている先生の)期間限定の国内留学のお問い合わせも受け付けております。アレルギー呼吸器以外の御専門の先生でも歓迎いたします。ご興味のある方は allergy6700@yahoo.co.jp までご連絡ください。 <p>☞<a href="https://www.allergy-doai.jp/"target="_blank

ぜんそくと抱き枕

ぜんそくの標準治療薬である吸入ステロイド薬がガイドラインに載ってから、ぜんそく患者さんの管理は大きく進歩しました。今ではぜんそく発作で入院になる患者さんはほとんどいなくなったものと思います(重症例が多い当科にはいまだに一定数の入院がありますが…)。ところで、ぜんそくを重症化させる可能性がある併存症には何があるかご存知でしょうか?

 

代表的なものとしてはアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎があります。近年は肥満や睡眠時無呼吸症候群(SAS)ぜんそくの重症化因子として注目され始めてきています。疫学的にはSASぜんそく患者さんの約30%!に併存しているようです。一部の患者さんは、SASのためにぜんそくが重症化している可能性があります。

一見無関係にみえるぜんそくSAS、いったいどのような関係があるのでしょうか。ぜんそくの重症化のひとつの重要な因子として酸化ストレスがあります。酸化ストレスとは簡単に言えば傷口に塗っていたオキシドールのシュワシュワです。学問的にはROS(Reactive Oxigen Species)と呼ばれており、細胞傷害性や炎症性シグナルを細胞内に送る働きがあります。酸化ストレスを受けた細胞はその細胞質内で炎症性のシグナルが核に到達して炎症を起こします。また、核内ヒストン脱アセチル化酵素の不活性化を介してぜんそく治療のキードラッグであるステロイドの効果を減弱させます(ステロイド抵抗性)1)

そこで、SASのお話しに戻ってみましょう。夜間にSASになる患者さんは、しばらく息が止まることでSpO2が大きく下がります。ここまではいいのですが(いや、良くありませんが…)、問題はそのあとにあります。低酸素に暴露されたあとで呼吸が再開すると、急激に動脈血酸素飽和度(SpO2)が正常化します。その際、あの問題のROSが大量に産生されるのです。つまり、SASが併存するだけでその患者さんは毎晩眠りながらせっせとぜんそく重症化・ステロイド抵抗性向上に邁進してしまうのです。SASによってぜんそくが重症化している患者さんは、SASの治療によりぜんそく症状が劇的に改善します。実際に私が経験した症例でも、無呼吸低呼吸指数(AHI)が正常化してぜんそくのコントロールが改善しましたので思わず論文化してしまいました2) お暇なときにお目を通していただければとても嬉しいです。

f:id:doaiallergy:20190218204329j:plain

SAS併存のぜんそく患者さんに対して、SASの治療が重要であることはご理解いただけたと思います。それでは、どのような治療介入がおすすめなのでしょうか。脊髄反射的に答えを出すのであればここはCPAPだと思います。ところが現実世界はそう甘くなく、CPAPは気道を乾燥させるためぜんそく患者さんにはあまり適しておらず、継続いただけないことがあります。そこでおすすめなのが、「抱き枕」です。雑貨屋で購入した身長くらいの長さの抱き枕にお気に入りのアイドルやアニメキャラの抱き枕カバーをつけて就寝いただきます。抱き枕により、就寝時間における側臥位・腹臥位睡眠時間の割合が増えてSpO2低下頻度が減少します。それに第一低コストですし、(大好きなアイドルやアニメキャラと一緒に眠れる)患者さんもとってもハッピーだと思いますよ。

 

1) Ito K, Lim S, Caramori G, Chung KF, Barnes PJ, Adcock IM. Cigarette smoking reduces histone deacetylase 2 expression, enhances cytokine expression, and inhibits glucocorticoid actions in alveolar macrophages. FASEB J. 2001 Apr; 15(6):1110-2.

2) 黨 康夫、越野 健、村松 弘康、久保 雅子、工藤 宏一郎、可部 順三郎 睡眠時無呼吸症候群の治療により、喘息症状の著明な改善をみた難治性気管支喘息の一例 アレルギー 45(2-3), 306, 1996