同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

スタッフ4名+医局秘書1名+部長1名で日々楽しく頑張っています。 大学の医局に関係なく、様々なバックグラウンドのドクターが集まっています。 後期研修希望者や(現在ほかの病院に勤務されている先生の)期間限定の国内留学のお問い合わせも受け付けております。アレルギー呼吸器以外の御専門の先生でも歓迎いたします。ご興味のある方は allergy6700@yahoo.co.jp までご連絡ください。 <p>☞<a href="https://www.allergy-doai.jp/"target="_blank

ベロネフォビアと痛ない採血

当ブログをご愛読いただいているみなさまの中には、「専門診療科に関する文献紹介じゃないの?」、「エビデンスねえな」などのご不満をお抱えの方々もおられるかと思います。そのような高尚な学術的内容はほかのブログで沢山紹介されているかと思います。ここではあくまで地に足がついた内容で攻めていこうと思います。

 

みなさんはベロネフォビアという言葉をお聞きになられたことはあるでしょうか?直訳しますと「先端恐怖症」となります。誰もが幼いころに感じた、注射が怖い!という心理を「針の先端に対する恐怖」と定義した学問的概念です。先端恐怖症の患者さんは、注射針を見ただけでまだ刺してもいないのに立ち眩みを起こしたりします。採血・点滴には若干の痛みを伴いますので、痛みが苦手な患者さんであれば(たとえベロネフォビアでなくても)なんとなく憂鬱になられることもあるでしょう。そもそもおとなになっても針先が好き、採血・点滴が好きという人はあまりいないですよね。わたしたちドクターは通常ぷすっと刺す側ですので普段はあまり意識することはありませんが、このような患者さんの心理状態が思わぬところで現代医療に影を落とすことがあります。

以前、当科外来受診中の70歳代女性の重症ぜんそく患者さんに当時最先端(針先ではなく字面通りの最新という意味ですが)の分子標的薬(皮下注射薬)を処方しました。初回の投与では特にアレルギー反応も示さず、今後の効果に大きな期待をしながら次回のご来院を待っていました。2回目の投与前にお具合を訊ねてみますと「とても良く効きました」とのこと。すっかり天狗になった私は、3回目の投与予定の外来予約を取りました。ところが3回目の投与予定日になりましたが、その患者さんがおみえになりません。狐につままれた思いでいましたところ、その後にほかの患者さん経由で思いがけない情報が飛び込んできました。なんとその患者さんは注射針が苦手で、今後毎月続く皮下注射投与が嫌になって受診をやめたというのです。冷静に考えてみますと、その患者さんはいい歳をして「注射針が怖いんです」とはいいにくかったのだと思います。受診中断に至るまで彼女はずいぶん悩んだだろうことが推測されるわけですが、それに気づくことができなかったことが非常に悔やまれました。その後は、同様のおくすりを導入する際には患者さんに「注射、大丈夫ですか…」と確認してしまう私がおりました。

まだ私が卒後1年半ぐらいのペーペーのころのお話しです。当時いた某医療センター内分泌代謝内科病棟は糖尿病の患者さんであふれていました。毎朝朝食前に、ナースステーション前に入院患者さんたちが行列をつくり、次々と採血されています。採血が終わり、朝ご飯を嬉しそうに食べているひとりの患者さんに「毎朝採血、大変ですね」と声掛けしたところ、仰天の返事が返ってきました。「先生、あの先生の採血は全然痛くないもの」と満面の笑みで言い放ったのです。いや待ってください、さきほどあなたが思いっきり注射針刺されて採血されていた一部始終を、私見てましたよ!それでも「あの先生の採血は痛くないよ、痛ない採血だよ」とおっしゃる患者さんなのでした。件の先生は相当のお年を召した丹波哲郎似の渋いルックスの先生でした。次々と腕を出す患者さんたちを黙々と採血されていましたが、手技的にはほかの先生方と特に変わったことはないように思えました。そこで思いきって、どうして「痛ない」のか訊ねてみました。するとその先生は言いました。「痛くないところから採血しているからね」

!!!い、痛くないところ~?それはどこですか…!?

詳細は次号を待て…!

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バルセロナのデザイナーズマンション群(写真と記事は関係ありません)