同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

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花粉症だと思っていたら…

花粉症シーズン真っただ中ですね。皆さんの中にも、ご自身が花粉症と闘いながら診療をされている方もあるのではと思います。本日は偽の花粉症のお話しです。

 

50歳の女性の方が、ひどい鼻閉を主訴に受診されました。はっきりとした花粉症の既往はなかったとのことです。海外赴任から帰国後3年を経過した1月ごろより、鼻汁と鼻閉がみられるようになったとのことでした。症状が軽いので経過をみていたところ、同症状は4月初旬には消失したとのことです。その翌年も1月に同症状が出現。4月には消失し、ついに花粉症になってしまったのか?と思っていたとのことです。さらに翌年の1月には、高度の鼻汁・鼻閉により生活に支障を来すほどになったため受診されました。時期的に少しずれてはいますが、この時期の季節性の鼻炎はやはり花粉症と考えるのが妥当でしょう。花粉症の発症時期はさまざまで、標準より早い患者さんも時におられます。鼻腔内の所見も、アレルギー性鼻炎で矛盾がありません。念のため、定石通りの各種問診をしましたが、スギ花粉以外のアレルゲンは見当たりません。海外赴任から帰国後、新築マンションに入居とのこと。ペットも飼っていません。部屋は毎日ロボット掃除機で清掃しているとのことですし、年末の大掃除は仕事多忙であることと寒いために行っていませんが、毎年5月の連休に数日間かけて隅々まで大掃除をしていたとのことです。掃除は万全のようで、かつ築浅の建物でありハウスダスト(HD)等が原因とも思えません。なによりも季節性の鼻炎であり、HDがアレルゲンである可能性は低いですね。お薬の処方を行うとともに、IgE/RAST検査を行いました。

その結果、RAST検査ではHD・ダニ・スギいずれも陰性で、花粉症はほぼ完全に否定的されました。ところが、同時に測定していたRAST検査の他項目でカビが陽性であることが判明しました。そこでお部屋の中のカビを捜索してもらったところ、玄関ドア内側の結露の影響か下駄箱の下と玄関においたスーツケースの下に大量のカビが生えているのが発見されました。24時間換気もあったのですが、流入する外気が寒いという理由で、ほとんど稼働させていなかったとのことでした。カビの退治・結露対策の強化・24時間換気の24時間稼働で症状は消失して、翌年以降は全く鼻炎が発症しなくなったとのことです。結露の時期とそれに伴うカビの増殖時期に一致していた季節性のアレルギー性鼻炎でした。5月の大掃除の際には、その時期にはカビは消失しており、冬場の状況には気が付かなかったようです。

近年、室内気の汚染(Indoor Air Pollution: IAP)が各種アレルギー疾患の原因としてクローズアップされています。この原因として、現代における空調設備を前提とした気密性が高い住居構造や夏季の高温多湿の環境、冬季に熱伝導率が高いアルミサッシの住居で室内暖房することによる結露などが挙げられます。研究によれば、IAPにより室内気が屋外の約5倍も汚染されているとの報告もあるようです1)。IAPによるアレルギーはまだ十分に知れわたっておらず、医療者や患者の意識も低いものと思われます。それゆえ本来であれば原因アレルゲン除去で治癒するはずなのに、それが同定されずに抗アレルギー薬などの内服を継続している患者さんがおられる可能性があります。突っ込んだ問診の重要性をあらためて感じる、大変示唆に富んだ症例でした。

 

1) Hulin M, Simoni M, Viegi G, Annesi-Maesano I. Respiratory health and indoor air pollutants based on quantitative exposure assessments. Eur Respir J. 2012 Oct;40(4):1033-45.

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