同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

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風向きは大事です。

先日、米国ダラス(テキサス州)で開催された米国胸部会議(ATS)に参加してきました。往路は東京から乗り継ぎのシアトルまで8時間半、復路は乗り継ぎのサンディエゴから11時間かかりました。同じ日本~米国西海岸でもずいぶんと所要時間に差があるものです。ご存知の方も多いと思いますが、航空機は「風」に大きく影響を受ける乗り物です。みなさんの中にも、ハワイ旅行の際にホノルル行きはわずか6時間半で着くのに復路は日本まで8時間半もかかってしまい「なんでやねん!」とお感じになられた人もおられるのではないかと思います。上空には西から東に向かって風が吹いていますので、日本からハワイへの往路は追い風、ハワイから日本への復路は向かい風となるわけでその影響は大きな所要時間の差となって体感されます。実はアレルギー疾患においても、「風向き」は思った以上に重要な因子として日常臨床に絡んできます。今日はそんなお話しです。

 みなさんは、花粉症シーズン真っただ中でも患者さんの症状が不可解な変動をすることを経験されたことはないでしょうか?「本日の花粉飛散量は非常に多いでしょう」と朝の天気予報が告げていても、全然平気なこともあれば、その逆で「本日の花粉量は少ないでしょう」という花粉予報に反して症状が大きく増悪することがあります。どうしてこのような現象が起きうるのでしょうか?

花粉の直径はおよそ30ミクロンです。当たり前ですがそのような小さな物体は風の影響を強く受けます。一般論として理解いただければいいのですが、関東地方であれば、スギの木が多い北関東から南方に向かう風(=北風ですね)が吹けば都心に多量の花粉が降り注ぎます。逆に東京湾からの南風が吹けば、海上にはスギは生えておりませんので都心に降り注ぐ花粉は大幅に減少することになります。風の影響は花粉飛散量よりも臨床では大きな影響を及ぼしますので、決して無視はできません。たとえ強い風が吹かない日であっても、日が昇れば内陸部は海よりもより早く熱せられますので弱いながらも風は南→北に吹きますし、日が暮れればその逆で北→南に吹きます。春先は冬の名残の北風優位の日と春の気配の南風優位の日が交互に訪れますので、その日の風向きがどちら優位かを出勤前に把握しておくことで症状の多寡がある程度予測できることになります。ちなみに私の故郷の福岡空港では、南北に延びる滑走路への着陸の際に(=追い風着陸はオーバーランのリスクが高いため)北風卓越のときは南側から、南風卓越のときは北側から着陸アプローチします。

その日の風量・風向を正確に評価することで、ざっくりしたものではないより臨床症状に即した「花粉予報」が可能になります。加えて地形や地表の状態(アスファルトなのか土なのか)などを入力して人工知能に演算させれば、単なる「花粉飛散量」ではない「花粉症症状」のマップが作成できるかも知れないですね。

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