同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

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アイディアの逃げ足

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天王寺動物園のカバさん


忙しい日常診療の中で、あるときふと臨床の素朴な疑問が頭に思い浮かぶことがあります。多くのそれは次の作業に移ると速やかに忘れ去られてしまうのですが、実はとても良い臨床研究のアイディアであったりします。これまで当科でも、高速エレベーター内の気圧変化が気胸発症のトリガーとなることに気づいたり1)間質性肺炎急性増悪にタクロリムスが有用であることを発見したり2)、長期経口ステロイドによる日和見感染リスクの上昇はプレドニゾロン一日量換算の6.5mg以上で生じることなど3)を論文化してきました。これらの業績も元はといえば、私がふと思いついたことに端を発しているわけですが、これがいつもうまくいくとは限りません。今回はそんなお話しです。

そもそも、以前のブログでもお示ししました通り人間の頭脳はコンスタントに働いてくれません。基本はアイドリングの状態であり時々思い出したように力を発揮するきまぐれな性格をしています。普段から問題意識を持って日々の業務にあたっておりますと、ある日ある時に突然アイディアが降ってくるのですが、これが全く予測できません。おとなしく机について事務作業中に舞い降りてくれればメモをとるのも楽なのですが、たいていは何も落ちては来ません。そして皮肉なことに、お風呂でシャンプー中やトイレで格闘中にそれらのアイディアはひょっこり姿を現すのです。当然ながら、そんなときはご想像の通りあられもない恰好をしていますのでメモなどとるのは不可能です。筆記用具も紙もない(トイレには別の紙ならありますが…)状況で記憶の彼方に逃げ去ろうとするアイディアを捕獲するのは本当に大変です。だからといって、ここであきらめるとお風呂やトイレを出た瞬間、思いついたアイディアはきれいさっぱりと忘れてしまうのです。

神出鬼没なアイディアをどのようにして捕獲すればよいのでしょうか?お風呂の場合は電化製品も使えませんし、もちろん紙とペンも使用不可能です。最後の手段は、アイディアを念仏のように唱えながら以後の入浴をそそくさと済ませて、脱衣所ですぐに書き留めるしかありません。はたから見ている家族にはどうにも奇妙な光景に映るようですが、これは止むを得ません。トイレで思いついた場合はどうするか?ですが、ペンさえあればとりあえず紙はありますので書き留めることは可能です。携帯電話を持ち込んでいればボイスメモという手も使えます。ボイスメモは散歩中にも使えますので、お散歩に携帯電話は必携といえます。無事に珠玉のアイディアを捕獲することに成功して、そのまま論文化できた時の嬉しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。時々友人に「いい論文だったね。興味深く読ませてもらったよ」とお褒めの言葉をいただくのですが、その論文のアイディアは実はトイレの中で捕獲されたものであったことは口が裂けても言えず、私の心の中だけでの秘密なのです。

 

1)Araki K, Okada Y, Kono Y, To M, To Y.Pneumothorax recurrence related to high-speed lift. The American J Medicine. Jun;127(6): e11-2, 2014.

2)Horita N, Akahane M, Okada Y, Kobayashi Y, Arai T, Amano I, Takezawa T, To M, To Y. Tacrolimus and steroid treatment for acute exacerbation of interstitial pulmonary fibrosis. Internal Med, 50(3):189-195, 2011.

3)Yomota M, Amano I, Horita N, Takezawa T, Arai T, To M, To Y. Serum immunoglobulin G is a marker for the risk of oppotunistic infection in steroid dependent severe asthmatic patients. Internal Med, 51(19) :2715-2719, 2012.