同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

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寒くない「寒い国」、寒い「寒くない国」

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四日市駅前(写真と記事は関係ありません)

以前にテレビを見ていて、「北海道の人の方が沖縄の人よりも寒がりだ」ということを実証する番組を見たことがあります。真偽のほどは置いておいても、確かに北海道や北東北の家屋は冬暖かく軽装で過ごせるという話は良く聞きます。それに対してそれ以外の地域では、往々にして冬に屋内が寒く家に居ながらにして重ね着して過ごすことが一般的のようです。かつての留学先であった英国も勿論寒い冬が長い国でしたが、石造りにセントラルヒーティングでしたので冬はTシャツ1枚で過ごせておりました。先週ご来院された喘息のご高齢の女性が、ずっと自宅内にしか居ないのにしょっちゅう喘鳴を起こすと嘆いておられましたのでよくよく聞いてみますと、水回りやトイレ・脱衣所が極端に寒くて暖房の効いたリビングからトイレに行くたびにゼーゼーするというのです。これはまさにヒートショック(=冷気)による喘息の悪化です。地球上で最も心安らぐ場所であるべき自宅内で喘息の悪化をきたすというのは本当にお気の毒で、日本家屋のヒートショック対策の必要性を痛感させられたエピソードでありました。本日はそんな冬への備えに関するお話しです。

 そもそも夏が高温多湿な日本では木材が豊富にとれたこともあり、風通しの良い木造建築が好まれておりました。江戸時代やそのような時代であればそれでも良かったものと思われます。その代償として冬は屋内が寒くなるため、コタツと囲炉裏、重ね着で冬に備えていたことになります。現在でも古い日本家屋では外断熱でないため、廊下や水回りを中心に外気温と大差ない寒い場所が存在しています。これらは勿論ヒートショックの一因となりえます。ヒートショックの問題点は心筋梗塞・脳血管障害などの心臓血管系の疾患だけというのは大きな間違いであり、前述したように、喘息症状を悪化させたり、肺炎などの呼吸器感染症の温床となり得るなど呼吸器・アレルギー領域という観点からみても看過できません。日本の大半の地域においては、一見安心して過ごせそうな自宅内に思わぬ落とし穴が存在しているのです。世界的には暖房は外断熱の住居内で均一に暖めるのが主流で、特に欧米はその考え方が徹底しています。熱が逃げやすい壁には断熱材もしくは石造りを、窓も必ず二重窓にして熱がそこから外に出ないようにしています。そうすることで、全館暖房にもかかわらず暖房代は大幅に節約できています。日本でも病院や公共施設内は全館暖房ですが、前述の女性患者さんもデイサービス中には全く喘鳴が出ないとのことでした。デイサービス施設ではトイレまでくまなく暖房が行き届いていますのでヒートショックが起こらないものと考えられます。

それでは、これからどのような対策が必要なのでしょうか?まずは、今後新築される家屋はヒートショック対策してあるものしか認可しないよう行政などが進めていくことが大切です。家屋は一度建てると数十年間使用するものですから、建立時に対策しておく必要があります。現在のまま断熱が甘い家屋の新造を認めていると、ヒートショック対策もいつまでたってもイタチごっこになってしまいます。次に、既設の家屋に関しては対ヒートショックのリフォームの推進が挙げられます。後付けの断熱材や二重窓化を推進してゆきます。これだけでも、冬場のヒートショック由来の疾患による救急搬送の件数が大幅に減少しそうです。3つ目は結露対策です。以前のブログにて、冬季の結露が原因で起こったカビアレルギーのお話しがありました。暖かいお部屋は結露と表裏一体です。換気をしっかりとして結露防止に努めなければなりません。長い目で見ると、国民の健康増進に役立つ「建物改革」、未来の世代に私たちが残せる価値ある遺産かも知れませんね。