寒くない「寒い国」、寒い「寒くない国」
以前にテレビを見ていて、「北海道の人の方が沖縄の人よりも寒がりだ」ということを実証する番組を見たことがあります。真偽のほどは置いておいても、確かに北海道や北東北の家屋は冬暖かく軽装で過ごせるという話は良く聞きます。それに対してそれ以外の地域では、往々にして冬に屋内が寒く家に居ながらにして重ね着して過ごすことが一般的のようです。かつての留学先であった英国も勿論寒い冬が長い国でしたが、石造りにセントラルヒーティングでしたので冬はTシャツ1枚で過ごせておりました。先週ご来院された喘息のご高齢の女性が、ずっと自宅内にしか居ないのにしょっちゅう喘鳴を起こすと嘆いておられましたのでよくよく聞いてみますと、水回りやトイレ・脱衣所が極端に寒くて暖房の効いたリビングからトイレに行くたびにゼーゼーするというのです。これはまさにヒートショック(=冷気)による喘息の悪化です。地球上で最も心安らぐ場所であるべき自宅内で喘息の悪化をきたすというのは本当にお気の毒で、日本家屋のヒートショック対策の必要性を痛感させられたエピソードでありました。本日はそんな冬への備えに関するお話しです。
続きを読むアイディアの逃げ足
忙しい日常診療の中で、あるときふと臨床の素朴な疑問が頭に思い浮かぶことがあります。多くのそれは次の作業に移ると速やかに忘れ去られてしまうのですが、実はとても良い臨床研究のアイディアであったりします。これまで当科でも、高速エレベーター内の気圧変化が気胸発症のトリガーとなることに気づいたり1)、間質性肺炎急性増悪にタクロリムスが有用であることを発見したり2)、長期経口ステロイドによる日和見感染リスクの上昇はプレドニゾロン一日量換算の6.5mg以上で生じることなど3)を論文化してきました。これらの業績も元はといえば、私がふと思いついたことに端を発しているわけですが、これがいつもうまくいくとは限りません。今回はそんなお話しです。
臨床研究の理想と現実
秋の台風シーズンとなり、当科にもその影響でぜんそく悪化を来して受診される患者さんが増えてきています。不思議なことに、ぜんそくの悪化は台風の接近時に最大となり台風が到達すると和らぎます。気圧自体は最低になっているはずの台風到達時に症状が最悪にならないのは、恐らくぜんそくそのものが気圧の絶対値に反応して悪化しているのではなく気圧の継続的な低下方向への変化に対して反応しているからだと推測されます。そんなことはぜんそく患者さんを多数診療しているドクターからすれば当たり前のことではありますが、なかなか論文化して証明することは難しいようです。このように、現実世界では明確に存在している臨床的事実のすべてが論文化という形でエビデンスになっているわけではありません。世の中にはエビデンス化がしやすいものとそうでないものがあります。エビデンス化されたことはたまたまその案件が論文化しやすかっただけのことであり、エビデンス化されていないことでも臨床的に大変重要なものもあります。したがって、エビデンス化されたものだけが真実だとはゆめゆめ思わない方が身のためだと思われます。