同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

スタッフ4名+医局秘書1名+部長1名で日々楽しく頑張っています。 大学の医局に関係なく、様々なバックグラウンドのドクターが集まっています。 後期研修希望者や(現在ほかの病院に勤務されている先生の)期間限定の国内留学のお問い合わせも受け付けております。アレルギー呼吸器以外の御専門の先生でも歓迎いたします。ご興味のある方は allergy6700@yahoo.co.jp までご連絡ください。 <p>☞<a href="https://www.allergy-doai.jp/"target="_blank

呼吸法、習ったことありますか?

f:id:doaiallergy:20191211191519j:plain

オオコノハズク


同愛記念病院アレルギー呼吸器科には、毎日たくさんの喘息・COPD患者さんが来院されます。これらの疾患の第一選択薬は吸入薬になります。吸入薬は内服薬と違って気管支局所に分布しますので、全身への副作用が出にくいメリットがあります。しかしその反面、上手に吸入しないとおくすりが気道粘膜まで届かず効果がでません。いきおい初回処方時には、外来で吸入法の即席レッスンをすることになります。若年で理解力がある患者さんであれば問題ないのですが、ご高齢の患者さんですとなかなか吸入手技が上達されないこともしばしばです。今回はこの「吸入薬」に関するおはなしです。

私の外来に喘息でおかかりの、ある女性の患者さんがおられました。Aという吸入薬を使用しておられましたが、幸い効果がありコントロールは良好でありました。そんな中、Aの新型モデルといえるBが発売されました。Aは1日2回の吸入を必要としますがBは1日1回で済みます。両薬剤の吸入口(=お口でくわえる部分ですね)のサイズ・デザインもほぼ同様であり、問題なく変更できそうです。私は上記を丁寧に説明した後にBに処方を変更しました。
次回の外来でどうでしたか?と私が質問したところ、患者さんが予想外のひとことを放ちました。「先生、Bに変えたら調子が悪くなってしまったよ。もとのようにAに戻してくれないかねぇ?」???・・・!
科学的見地に立つ限り、BがAに劣る点は皆無ですし、吸入による薬剤のデリバリー(=容器から気道への輸送)効果にも差があるとは到底思えません。それでも真剣に両薬剤の効果の差を訴える患者さんの目には真実の光が宿っておりましたので、私は迷わずAに再度処方変更しました。A に戻してからは、患者さんの自覚症状は元にもどり何事もなかったように元気に通院しておられます。私としては狐につままれたような気分でありましたが、このことを単なる患者さんの思い込みで片づけていいのでしょうか?
吸入薬にはさまざまな剤型(=薬剤の形状)があります。パウダー形式で自分の肺活量で吸い上げるものや、スプレー形式で口腔内に噴射してそのまま吸入するものもあります。これらを処方していますと、剤型と患者さんとの間に「相性」があることがわかってくるのです。ある患者さんは、パウダー型の薬剤ではほとんど症状が改善せず、スプレー式に変更した途端に大幅に症状が改善しました。別の患者では反対にスプレー式の薬剤では症状が改善せず、パウダー式に変更後に症状がなくなりました。前者では肺活量不足でパウダーが十分に気道に届かなかったのかな?とか後者ではスプレーと吸気の同調が下手で自分のペースで吸い上げられるパウダーのほうが適していたかも…という可能性はあります。それでも、パウダー同志やスプレー同志であっても効果に大きな差が出る患者さんも少なからずおられますし、パウダーとスプレーの差だけでは到底説明がつきません。そうなると、どうしても棄却できない可能性として、「呼吸の方法には実はかなりの個人差があるのではないか?」という点を考慮せざるを得ないのです。
そもそも私たちは「正しい」呼吸法を誰からも教わっていません。オギャーと生まれたときから、呼吸はひとりひとりが誰からも教育されずに好き勝手に開始しています。わかりやすいところですと、胸式呼吸と腹式呼吸のどちらをしているかにはご存知のように個人差があります。したがって、吸気流速・呼気流速のみならず吸気と呼気の比率やその間の息止め時間などにはかなりの個人差が存在することのほうがむしろ自然です。本来であれば、その個人差を検査で検出して各々の特性に最も適した薬剤を吸入してもらうのが理想的といえます。現時点においてはそのようなテクノロジーがないことから、処方時にはその都度患者さんの自覚症状の変化を注意深く観察しながら試行錯誤による処方薬の最適化を行う必要があるものと思われます。そういえば、呼吸のしかたの模範(=正しいやり方)ってどこで学べるのでしょうか?中国拳法のお寺やインドのヨガスクール、スタンド使い(笑)などが候補には挙がりますが、多くの患者さんにとっては、どれも現実的な選択肢ではないようですね…