同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

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気胸の思わぬ落とし穴

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スタッフが通勤途上に撮影しました。


今日も当院からは、東京スカイツリー™(人工建造物として世界第2位、自立式電波塔として世界第1位の高さ)が綺麗に見えています。実は当院は東京スカイツリーから約2kmのところにあり、通勤時にも東京スカイツリーがよく見えて心をなごませてくれます。

当科では、数年前に高速エレベーター搭乗が原因と思われる気胸の再発の症例を報告しました(Araki K, Okada Y, Kono Y, To M, To Y Pneumothorax recurrence related to high-speed lift. Am J Med 2014;127:e11-2)。

 

東京スカイツリーを見るたびに、この症例から学んだ事を思い起こしています。

症例は22歳の男性で、19歳時に自然気胸のために保存的療法を受けています。その後、旅客機への搭乗は一切避けていたとのことです。今回、観光で東京スカイツリー™を訪れました。エレベーターで東京スカイツリー™の展望台にのぼり、1時間ほど滞在して降りてきた直後に小走りした途端、突然胸痛を自覚しました。すぐに当科を受診し、気胸の再発と診断されて治療を受けました。

この症例の気胸の再発の原因として、高速エレベーター搭乗による気圧の急激な変化が関与した可能性が考えられます。東京スカイツリー™の高速エレベーターは、地上350mの展望台までたった50秒で運んでくれます。これに搭乗すると、42hPa/分の気圧の変化を経験することになります。これに対して、標準的な旅客機に乗った際の機体の上昇に伴う気圧の変化は5.711.5hPa/分です。地上350mの展望台の気圧自体はそれほど低くはないものの、搭乗者が経験する気圧の変化率は高速エレベーターでは旅客機搭乗時に比べるとはるかに大きいことがわかります。この急激な気圧の変化が肺内のブラに影響を与え、気胸の再発の原因になった可能性は十分に考えられます。

みなさんも高層ビルのエレベーターに搭乗されたときに「耳ツン」を経験されたことがあるかと思います(最近の航空機では離陸上昇時に「耳ツン」を自覚することはほとんどありません)。鼓膜をポコンと押すほどの応力が脆弱な肺内ブラに作用すれば、気胸になっても不思議はありませんよね。

なお、最近は気圧制御装置のついた高速エレベーターも開発されているようで、これだと安心ですが、気胸の患者の生活指導では、高速エレベーターへの注意喚起も大切だと思われます。

 

この症例を通じて私たちは、気胸の原因に関する医学的知識だけでなく医療への向き合い方のひとつも学びました。現代生活における科学技術の進歩はめざましいものがあります。勿論その進歩によって私たちは多大な恩恵を受けているのではありますが、そのような技術革新が患者さんの体に与える影響について、常に関心を持って配慮しなければならないと考えています。