同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

スタッフ4名+医局秘書1名+部長1名で日々楽しく頑張っています。 大学の医局に関係なく、様々なバックグラウンドのドクターが集まっています。 後期研修希望者や(現在ほかの病院に勤務されている先生の)期間限定の国内留学のお問い合わせも受け付けております。アレルギー呼吸器以外の御専門の先生でも歓迎いたします。ご興味のある方は allergy6700@yahoo.co.jp までご連絡ください。 <p>☞<a href="https://www.allergy-doai.jp/"target="_blank

本日の天気予報:おおむね咳喘息・たまに結核でしょう。

かつては、気管支喘息患者であっても喘鳴がないという理由で診断が遅れた時代がありました。しかし、現在は喘息に関する啓もうが進んできており、自覚症状として咳嗽のみが見られる「咳喘息」も一般的にかなり認知されてきています。インターネットにもその情報があふれています。

一方で、肺結核は現在もなお社会的に大きな問題となっている疾患ではありますが、一般的には過去の病気として医療従事者以外の方には忘れられている印象もあります。本日は、そんな2つの疾患に関するお話しです。

 

 

私どもの科は「アレルギー呼吸器科」と標榜しています。古くから、外来受診患者の中に気管支喘息患者の占める割合が多い病院です(外来受診患者さんの約70%が気管支喘息患者です)。そのため、長引く咳(慢性咳嗽)の際に、咳喘息を心配して当科を受診される患者さんがしばしばおられます

 

ある秋の日に50歳くらいの女性の患者さんが受診されました。秋口の台風の季節から2か月間くらい咳嗽が続いているとのことです。咳の程度は軽いので、日常生活に支障ときたすこともなく様子をみていたとのことでした。インターネットで咳喘息のことを知って、喘息に間違いないと思ってわざわざ遠くから当院を受診されました。

経過中、発熱はなく、食欲もあり、全身倦怠感もありません。寝汗も一度も経験なく、またもちろん体重減少もないとのことです。少なくとも急性感染症は否定できそうです。この時点では、患者さんが心配しているように咳喘息の可能性が強そうです。勿論、GERDやその他の疾患も鑑別しなければいけませんが。

さらに病歴聴取を進めていきます。

 

医師:咳は1日のうちで、どの時間帯に強いですか?たとえば、朝に多いとか、夜間に多いとか。

患者:はっきりしません。

医師:夜、咳で覚醒してしまうことはありませんか?

患者:ありません。夜は眠れています。

医師:天候の変化や低気圧で、咳の強さや出方は変わりませんか?たとえば、3日前は冷たい雨がふりましたよね。

患者:天候との関連はありません。

医師:何か決まったことを契機に咳が出ることはありませんか?たとえば、スーバーの冷蔵ショーケースの前で冷たい空気を吸ったときとか…。

患者:特にないようです。なんとはなしに咳が出ます。

医師:咳は、食後や満腹時に多い傾向はありませんか?

患者:そうでもないです。

医師:んんん…?

 

みなさんもお気づきかもしれませんが、気管支喘息は、日内変動や季節性があり、何らかの刺激に反応して症状が悪化するのが特徴です。それが全くないのは、どう考えても不自然です。

聴診所見では明らかなraleは聴取しなかったので、肺癌や肺結核等を疑ってまず胸部レントゲンを撮影しました。その結果、典型的な肺結核の陰影があり精査の結果活動性肺結核と診断できました。

気管支喘息の診断および除外診断にあたって、いかに病歴聴取が重要かということがおわかりいただけるかと思います。

 

本症例では、もうひとつ注目すべき点があります。結核の症状は、教科書では咳嗽、喀痰、微熱、食欲低下、体重減少、盗汗等が挙げられていますよね。肺結核を疑ったら、これらを問診するようにと指南しているマニュアルもあります。今回の患者さんは、咳嗽以外の症状が全くありませんでした(微熱はあったかもしれませんが、測定していなかったので不明です)。ここで明記しておきたいのは、上記の症状がすべてそろう肺結核はかなり進んだ状態であり、初期においては咳嗽のみしか認められない患者も多いということです。現在では、自覚症状がなく定期検診で結核がみつかる例もちらほら存在します。活動性肺結核の自覚症状が乏しい理由としては、現代人の食生活が豊かになり結核に罹患してもるい痩や栄養状態悪化を来しにくくなってきたことが根底にあるものと考えられています。慢性咳嗽の患者を診るとき、「肺結核」は重要な鑑別疾患のひとつです。また、「ほぼ咳喘息だろうと思って、採血、胸部レントゲン、スパイロメトリーのすべてを実施後に予想に反して肺結核と判明した。」ということがあっては、院内感染の制御上、大きな問題になりますね(スパイロメータに結核菌を吹きこんでしまっている可能性があります)。そういう意味でも詳細な病歴を聴取することと、実臨床で出会う肺結核の症状、気管支喘息の症状の特徴の違いをしっかりと押さえておくことは重要だと思います。

f:id:doaiallergy:20190422150342j:plain

隅田川(写真と記事とは関係ありません)