同愛記念病院アレルギー呼吸器科のブログ

スタッフ4名+医局秘書1名+部長1名で日々楽しく頑張っています。 大学の医局に関係なく、様々なバックグラウンドのドクターが集まっています。 後期研修希望者や(現在ほかの病院に勤務されている先生の)期間限定の国内留学のお問い合わせも受け付けております。アレルギー呼吸器以外の御専門の先生でも歓迎いたします。ご興味のある方は allergy6700@yahoo.co.jp までご連絡ください。 <p>☞<a href="https://www.allergy-doai.jp/"target="_blank

治った、治ったよ。

今年の春、重症喘息患者を対象として新規分子標的薬であるデュピクセント™(一般名:デュピルマブ)が保険適応になりました。本薬剤はアレルギー性のサイトカインであるIL-4とIL-13を同時に抑制できる画期的な薬剤で、本邦ではすでにアトピー性皮膚炎の保険適応が認められています。今回は、このアトピー性皮膚炎にまつわるお話しです。

何を隠そう、かつて私はアトピー性皮膚炎患者でありました。添加物全盛世代ともいわれる昭和40~50年前後の生まれであるのが原因か、この難治性皮膚疾患にはほとほと苦しめられておりました。中でも一番困るのが、肌がかさかさに乾燥して落屑が落ちることでした。朝起きるとベッドやまくらの上に夥しい量の皮屑があるのです。すっかり積極性を失ってうつうつしていた私でした。そんな中でどうして英国留学などという思い切りが必要なイベントを無事にクリアできたのか今でもわかりませんが、無事に留学の運びとなりました。国外脱出に必要な各種手続きをあたふたと済ませて無事英国移住完遂!となったときには、多忙すぎて自分の病気のことなどすっかり忘れておりました。

英国生活が始まりますと、また別のストレスフルな日々が始まりました。銀行口座を作成するのでさえ何回も銀行に通う始末です。とにかく生活の立ち上げに夢中でしたが、しばらくして自分の体に起こった「異変」に気づきました。あれほど困っていたアトピーの症状がいつのまにか軽快していたのです。英国移住以降、アトピーに対して特別なことは何一つ行っておりません。というか忙しすぎて何もできませんでした。それなのに、大したスキンケアもしていないのにお肌の調子がいいのです。皆さんもご承知のように、欧州は日本と比較して湿度が非常に低いです。ゆえに乾燥肌には鬼門のはずです。なのに、むしろ肌具合は突き抜けて改善してしまったのです。もう何のスキンケアも不要になってしまった自分に戸惑いつつも、なぜそうなってしまったのかが疑問として残りました。

数年後、期せずして日本に帰国することになりました。帰国後にアトピーが再燃することを恐れていた私でしたがそれは杞憂でありました。帰国後も皮膚が荒れることはなく、引き続き大変いいコンディションが維持されました。よって、私の脳内ではますます謎が深まるのでした。「どうして良くなってしまったのだろう…」と。

この理由としてはいくつかの可能性が考えられます。列挙しますと、①日本とはアレルゲンが異なるため、アレルゲン由来の刺激が減った、②日本に比べて極端な多湿・高温になりにくい英国の穏やかな気候が皮膚への低刺激に寄与した、③移住によって食生活が変容し、腸内環境(フローラ)が変化してアレルギー体質が正常体質に近づいた、④英国は日本に比べて添加物や防腐剤の規制が厳しかったのでこれらによる過敏反応が消失した、⑤そのほか(=まだ気づいていない理由)となります。本音をいいますと、個人的には③の可能性を一番疑っています。ですが、そうであれば帰国後日本的食生活に戻ったのに再燃しないという点の説明がつきません。真実は未だ闇の中…ではありますが。また、アトピー性皮膚炎は皮膚のバリアが障害されている疾患なので、一旦完全に原因を回避してバリア機能を回復すればその後に原因と接しても容易には再燃しないのかもしれません。

このようにアレルギー疾患の治療は薬物療法だけではありません。今回のケースのように期せずして環境の変化?でいきなり治癒することも時としてあります。現時点までの臨床医学基礎医学の論理からでは導き出せない現象が、アレルギーの臨床ではまだまだ数多くあるのです。豊富な症例数を誇るここ同愛記念病院アレルギー呼吸器科では、なぜ?どうして?と思わず唸るアレルギー疾患症例を多数経験することが可能です。先生方も、私たちと一緒に机上の勉強では得られない価値ある経験をしてみませんか?

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