採血のコツ
検診のときや病気で病院を受診したときによく「採血しましょうか」とドクターに勧められることがあります。採血そのものは非常にありふれた基本的な検査手段ですが、実際に血液を採取する医療従事者にとってはなかなか奥が深いです。今回は採血についてのこぼれ話をお聞かせしましょう。
みなさんは採血する際にはどこから血液を取りますか?もちろん腕からに決まってるでしょう!と易怒性満々の先生方もおられるかと思いますが、血管切れちゃいますので少し落ち着いてください。ここでいう「どこで」とは採血の際に穿刺する血管のことです。大多数の先生方が前腕屈側の血管が浮き出ているところと回答されるものと思います。もちろん正解なのですが、いくつか気を付けておかないといけないことがあります。まず、血管は駆血後に「見えている」ものよりも「浮き出ている」ものを狙う方が成功率は上がるということです。(もちろん見えていてかつ浮き出でいれば申し分ないです)ヒトは哺乳類の中でも視力が最も発達しておりますので、往々にしてそれに頼りがちになります。よってしばしば浅い皮静脈が弱々しく青くみえているほうに気をとられがちです。しかしながらそのような細い皮静脈は内部の血流が少なく「よどんで」いることが多く、穿刺後シリンジで陰圧をかけてもペタンと閉塞してしまいうまく血液が採取できないことが多いです。また、細いがゆえに血管壁が脆弱で採血中に血液が皮下に漏出して血腫になったりします。これに対して、たとえ皮膚と同じ色調で目視できない血管でも指先で触るとコリコリした弾力を感じる場合は採血が成功することが多いです。血管壁がしっかりと怒張していることは、内部の血流が十分にあることと血管壁がある程度丈夫であることを担保しているからです。したがって、血管を探す際には目に頼らず(ときには目をつぶって)指先で血管を探してみるといいですよ。
また、血管が浮き出にくい患者さんの場合に人差し指と中指をくっつけて患者さんの前腕をペシペシと叩いている先生方はいませんか?あ、それなら今朝見たよ~というほどありふれた光景ですが、実はこれすごく痛いんです。患者さんにとっては。実際に自分にしてみると、その不条理な痛さには心底腹が立つほどです。ぜひ明日からはおやめになることを切に願います。血管が浮き出にくい際の正しい対処法は、腕をなるだけおろして重力の力を利用しつつしばらく(駆血継続可能な時間内で)そっと待つことです。ほら、じわっと浮いてきた血管があるでしょ?これなら痛くありません。患者さんによっては、浮腫があるために血管を同定しづらいことがありますよね。これもまず駆血したら、指先で丹念に血管を探してみつけた血管の両側の辺縁部分の皮膚を長軸方向に数センチの範囲で軽く押さえてちょうど雪の中から血管を掘り出すようにして浮腫をよけてあげるとバッチリ採血できたりします。
これら匠の技は、実は普段頻回に採血している看護師さんや検査技師さんに教わりました。できるだけ彼らと仲良くしていると、仕事上いろいろとためになるコツなどを教えてもらえるかも知れませんね。